不動産の所有者が死亡して、相続人の全員が相続放棄をした場合に、相続人不存在となった空き家が残ることがあります。
その空き家が、地域住民などの第三者に損害を及ぼしそうなときに、町内会や市町村から相続放棄した相続人に対し、管理責任について連絡が入るケースもあるようです。
相続放棄した空き家の管理義務についてウェブ検索すると、たくさんのウェブページがヒットしますが、誰が、いつまで、誰に対し、どこまでの範囲の管理義務を負うのか、考えてみたいと思います。
相続放棄者が空き家の管理義務を負う根拠とされる法律
根拠とされる法律として挙げられるものに2つありますが、その1つが民法第940条第1項です。
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
上の条文をもとにして、市町村などから管理責任について問合せを受けることがあるようですが、この規定による管理義務は、後に相続人になる者などに対するものであるとされています。民法の注釈書を読みますが、この規定が地域住民など第三者に対する義務も含むとの解釈を導くのは乱暴であるように思います。
また、後に相続人になる者などに対し管理を行うにしても、その範囲は相続財産の現状を維持するのに必要な事務のみに限られ、建物を取り壊すなどの処分行為は含まれません。実際、処分行為をしてしまえば、相続放棄したにも関わらず、相続の単純承認をしたとみなされるおそれもあるので、注意が必要です。
また、もう1つ挙げられるものとして、空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)第3条があります。
空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする。
上の条文では、相続放棄者が「管理者」と言えるかどうかが問題となりますが、これについては国交省と総務省の事務連絡により、相続放棄者は空家法第3条の管理者に該当するとされています。
また、同事務連絡では、管理者は相続放棄者のうちでも「最後に相続放棄をした者」と解釈しています。
よって、空家法によれば、最後に相続放棄をした者である管理者が、空き家の周辺で生活する地域住民などの第三者に対し、空家等の適切な管理について「努力義務」を負うと言えます。
国の見解と参考となるマニュアル
前出の国交省と総務省の事務連絡は、相続放棄した空き家の管理義務について、
- 相続放棄者は、民法940条により空き家の管理義務を負うが、これは後に相続人になる者等に対する義務であって、地域住民などの第三者に対する義務ではない
- 相続放棄者は、空家法3条の管理者には該当するから努力義務は負う
という見解に立っているようです。
空き家については全国各地で問題になっていることから、どの自治体も対策にのり出していて、マニュアル等も作られていますが、埼玉県川口市の「所有者所在不明・相続人不存在の空家対応マニュアル~財産管理人制度の利用の手引き~」がたいへん参考になりました。
川口市の空き家対策係と、弁護士によるプロジェクトチームが作成したもので、Q&A形式により分かりやすくまとめられています。
川口市ホームページへのリンク